能登半島地震から早や三か月が経過しました。一日も早い復旧を願ってやみませんが、この間地震で倒壊した建物の解体を巡ってSNSを始め、目にする機会が多くなっています。
部外者からみますと「なんで早く解体撤去して復旧をすすめないのか」ということなのでしょうが、建物一つ一つには当然所有権があり、個人の持ち物です。従って他人が勝手には解体撤去はできないのですが、不動産登記を確認しても相続登記がなされておらず、持主を特定できず、復興の妨げとなるという隘路に陥っているようです。
下記のNHKのニュースでは相続登記が任意だったので仕方ない・・・というニュアンスで司法書士会や東京財団の吉原祥子先生の談話が掲載されていますが、土地家屋調査士としては言いたいことがあります。ずっと「義務」とされてきた不動産登記法の規定があったではないですか、と。
不動産登記法では以下の条項で建物所有者の義務が規定されています。
第四十七条 新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。
第五十七条 建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の場合にあっては、所有者)は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。
要は建物の新築時(増築)、又は取り壊した時の登記は義務となっています。ですので義務に反した場合、(本来は)下記の条項が適用されます。
第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
一般的に建物の相続登記が発生する際、かなりの確率で(滅失登記も含め)表題登記が必要になるケースが数多く見られます。能登地域の建物も相続登記以前に、建物の表題登記がちゃんとなされていましたか、と言いたいです。その点、土地家屋調査士業界としてもアピールが足りないし、今後も発生するであろう震災対策の教訓とするためにも明らかに登記の懈怠があった場合は法にのっとり(禁じ手とみられた相続登記も義務化されたわけですから)適正に過料を請求してもいいのではないでしょうか。
こう言っては「被災者に冷たい!」と言われるかもしれませんが「権利の上に眠るものは、保護に値せず」との法の格言は重いと考えます。もちろん応急処置的な対応は相続人の代表者の同意などでひとまず行うとしても、今後もこうしたケースの発生も想定されます。同意書での弥縫策的処置だけでなく、これを機に、不動産登記法の趣旨を国民に正しくご理解いただけるように、被災地の復旧復興とあわせて努めるべき時ではないでしょうか。
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NHK石川 「特集」地震で倒壊した家屋の公費解体 所有者同意に課題 04月02日 18時40分 より
能登半島地震により倒壊した家屋などの公費での解体についてです。
3月27日時点で、特に被害が大きかった輪島市や珠洲市など能登地方の6つの市と町で行われた公費解体は131件にとどまっています。
一方で、家屋の所有者全員の同意を得られないなどの理由で、解体の申請ができないケースが相次いでいることがわかりました。
【公費解体とは】。
能登半島地震で「半壊」や「全壊」となり、全額公費で解体される家屋はおよそ2万2000棟と想定され、国や自治体は4月以降、解体工事を加速させるとしています。
【実際の相談では】。
3月27日、加賀市で、輪島市や珠洲市から避難した人向けの相談会が行われました。
ここでも公費解体についての相談が寄せられていました。
相談した人「どんなになるか、書類を書かなくちゃいけないか、土地がどんなふうになっていくのか、ちょっと分からなかったもので」。
環境省のまとめでは、3月27日時点で住民などから受け付けた解体の申請は4364件と、全体の2割足らずにとどまっています。
【なぜなのか】。
なぜ手続きが進まないのか。
具体的には、家屋の解体は私有財産の処分にあたるため、所有者全員の同意を書面で提出することが求められているからです。
穴水町川島の林淳彦さん(62)です。母親と兄と3人で暮らしていた住宅は、全壊しました。
このうち母親は壊れた住宅の下敷きになり、亡くなりました。
林さんは、母親が亡くなった家をそのままにしておきたくないと、早い時期の公費解体を希望して町に申請を出しました。
しかし、所有者が同意したことを証明する書類が不足していたことから、手続きが進まなくなっているということです。
林さんによりますと、築およそ100年の住宅は、しばらく相続の手続きがされておらず、所有者が誰の名義になっているかわからなくなっています。
このため法務局で調べたところ、4代前の高祖父の名義となっている可能性が高いことがわかったということです。
町からは所有者が亡くなっている場合、相続する権利がある人全員の同意を取るよう伝えられているということです。
林さん「たいへん困りました。居場所が分からない方も当然いますからね。生きてるか死んでるかも分からないような方をどうすればいいんだという気持ちになりますよね。お金があれば自費解体という方法が選べるわけですけども、それすらもいまはできないような状態なので、そうすると公費解体に託すしかない」。
【状況改善を!】。
石川県司法書士会では、こうした現状を踏まえ、県内の自治体に対し「相続人全員の同意は必要としない」などの柔軟な対応を求めて要望を行ったということです。
(石川県司法書士会の曽根裕会長)。
「地方に関しては昔ながらの名義が変わっていないというケースが多くあるかなと思う。今回も震災によってそれが顕在化した。司法書士会も継続的な相談窓口を設けているのでぜひ利用してほしい」。
《相談の8割は家屋の公費解体に関するもの》
石川県司法書士会は、ことし1月以降、能登半島地震で被災した人たちの生活に関する困りごとに無料で相談に応じていますが、これまでに電話で寄せられた相談の8割は家屋の公費解体に関する相談だということです。
県司法書士会によりますと、これまでに寄せられた相談は▼家屋の所有者がすでに死亡した親族の名義となっていて相続人が誰なのか不明だ、▼相続人は判明しているが、多数いるため全員の同意を得ることが難しいという内容が多いということです。
3月27日、石川県加賀市で、輪島市や珠洲市から避難した人向けの相談会で、自分が所有者となっている自宅が全壊し、公費解体の申請の流れを確認しに来たという輪島市の67歳の男性は「子どものころから過ごした家で複雑ではありますが、いまだに家族の大切なものも含めて持ち物も一切出せていないので公費解体を申請しようと考えています」と話していました。
石川県司法書士会の曽根裕会長は「能登半島に限らず、地方では昔ながらの名義が変わっていない家屋が多くあると思うが、今回の震災によって、それが顕在化したと思う。相続人の全員の同意がなかなか難しいケースの場合は柔軟に対応していただきたい」と話していました。
《「所有者の問題が繰り返されてる」》
所有者不明の土地の問題に詳しい東京財団政策研究所の吉原祥子研究員は、土地や建物を相続した際の登記は4月1日から義務化されましたが、これまでは任意だったことから亡くなった人の名義のまま何年もたっているケースは多く、過去の災害でも復興事業の遅れにつながったといいます。
吉原さんは「相続人全員を探すことの大変さによって、復興や復旧が遅れるということが、繰り返されてしまっていると感じている」と指摘しています。
そして、相続人が多数いるなどしてやむをえない場合、環境省が申請者に、問題に責任を持って対応する旨の宣誓書で解体を行えるという考えを示していることを踏まえ、「宣誓書による手続きの迅速化は重要で、こういった思い切った政策を国が出しているので、現場の市町村が安心して使っていけるような、もう一歩踏み込んだ具体的な実務上の支援が必要だ。また、相続人の同意が必要なのであれば、被災者に寄り添ったサポートを継続的に行っていく体制が、被災者の財産を守るだけでなく迅速な復興のためにも必要だ」と指摘しています。
その上で、4月1日から、相続した土地や建物の登記が義務づけられたことについて、「いま被災地で起きている問題は、日本全国どこでも今後起きうる問題だと思う。私たち一人ひとりが、住んでいる家や実家などの登記がどうなっているのかを確認し、相続登記を進めることが大事だ」と話していました。