先日、今年10月に岩波書店より発刊されました「入会林野と所有者不明土地問題: 両者の峻別と現代の入会権論 」について本サイトでも紹介させていただきました。
同書に「小繋事件(こつなぎじけん)」という、聞きなれない事件名を題した書籍が参考文献に紹介されておりました。入会権の歴史を考える上で欠かせない書籍と思い、既に廃刊のようですが、古書を入手し読まさせていただきました。著者は早稲田大学の教授を務められた法学者の戒能通孝です。
本書を読んで、まず、現代(ちょっと昔なので前近代かも)の「一所懸命」とはこのことか、と痛いほど感じました。とにかく、全編を通して「重い」「苦しい」「やりきれない」「不条理」…、といった話が続きます。
身もふたもないと言いますか、本当に救いのない話で、ここに描かれている名もなき住民による一見法律違反で経済的にもありえない、暴走ともいえる行動を今の若い人達が果たして理解できるのだろうか、と考えてこんでしまいました。
所有者不明土地問題の根源は農民が先祖伝来の土地に執着しなくなったことにあると思うのですが、率直にいって都市からも離れた不便な地域、かつ、山がちで農業にも適さない小繋地区で生きるためにここまでしてしまう、怖いまでのこだわりの強さに隔世の感を禁じえませんでした。
でも、人間の心理や行動って単純に合理性だけでは計れないものだとも思います。小繋の住民の心情を推し量ることは部外者には土台無理なのかもしれません。
本来、本書で取り上げられた入会権は、山や川との関りが生活するうえでは事実上不要となった現代では単に廃れ、静かに消滅していく存在であったのでしょう。ただ、因果なことに昭和期までは全く想定外の、所有者不明土地問題がクローズアップされるようになったことで、入会権が亡霊(背後霊、いや地縛霊か?)として、今日改めて浮上してきたのではないでしょうか。
亡霊も、入会権も直接は目に見えませんが、人間社会では確実に存在しています。現代の土地にまつわる亡霊の「入会権」を考える上で、目を通しておいて損はない一冊かと思います。