「境界の政治地理学 ―境界は動くのか―」古今書院 田邉裕著 を読む

 

 古今書院より今年2月に発刊されました田邉裕著「境界の政治地理学 ―境界は動くのか―」を読んでみました。著者は長年にわたり地名や境界について研究してこられた地理学者ですが、本のタイトルも土地家屋調査士としては、やはり興味を引くものでしたので興味深く拝読させていただきました。

 

 古今書院による、同書の紹介においても「国内のさまざまな境界争論について意見を述べてきた経験をもとに「境界概念」を整理しその基本原理を明らかにするとともに、2019年に東京地裁が判決を下した東京湾埋立地をめぐる境界争論について、裁判の過程で著者が提出した学術的意見の内容を資料を交えて明示」とありますので、内容としては「境界」と言っても、土地家屋調査士が日常携わるような私人間の、一筆地の境界というよりは、行政界を中心に境界概念を整理されています。

 これは先生のヨーロッパへの留学経験や、それなりにご高齢であること(筆界争い自体がバブル期以降増加したため)も影響しているような気もしますが、筆界を学問的に評価するのは難しいとも思いますので仕方ないとは思います。

 

 ただ、第6章の「現代的境界概念と境界争論-大牟田・荒尾市の事例」の中で、

 

 第2節 先行境界からの検討

 第3節 追認境界からの検討

 第4節 上置境界からの検討

 

と聞きなれない概念を用いて境界について説明をしておられます。大変ざっくりした括り(土地家屋調査士にとって理解しやすい)で表現すれば

 

 先行境界 ⇒ 筆界    追認境界 ⇒ 所有権界    上置境界 ⇒ 未確定の境界線

 

のような感じでしょうか。私の理解が足りないせいかもしれませんが、少し難しいですね。

 

 東京湾埋立地の境界争論では「等距離線」(※原初海岸線からの距離のこと)について、国際法の考え方も交えて説明がされていますが、これまた難しいですね。

 

 正直なところ、海岸の造成地などとは縁遠い、田舎者から言わせていただければ「造成前から境界くらい決めとけば」って思うのですが、こういうものはまず物理的に造成するっていう行為が先に来るものなんでしょうかね。区同士の話し合いがつかないなら、都が、都と他の県がもめたら国が決定する、というルールはないのでしょうかね(結局裁判に持ち込まれるなら、一緒かもしれませんが)

 

 ちょっと土地家屋調査士の境界確定業務とは毛並みの違った境界論を論じた同書ですが、改めて「境界」について考えるには単純に面白い内容と思いました。宜しければご一読ください。

 

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