平成29年3月に発刊されました「舞鶴の絵地図」。発刊されたことは知ってはいましたが、最近初めて手にする機会があり、拝読致しました。滋賀以外のこうした絵地図集を目にする機会はあまりありませんので貴重な機会です。
本書の大まかな構成として「まち」と「むら」の絵地図を分けて紹介されている点が大変良かったと思います。まず、現代においては地図は町であろうが、農地であろうが、山地であろうが利用状況によって地図を書き分けるといったことはありません。少し表現が難しいのですが、測量方法(使用機器)が違う、ということ自体現代では考えられません。
ただ土地家屋調査士の作成する図面や国の実施する地籍調査でも、市街地域、農用地域、山林原野で精度区分が設けられています。が、これは個人的には歴史的な地図作りの名残ではないかと思っています。
本書はそれを意識してかどうかはわかりませんが、まちとむらを最初から分けて整理していただいておりますので、見る側にとっては地域の歴史理解、特性の把握もより容易となるのではないでしょうか。
またサービスの素晴らしいことに論考編として「絵図による舞鶴の海の把握(島本多敬)」及び「舞鶴の明治の地籍図(古関大樹)」と二本立ての考察が掲載されております。まず、絵図による舞鶴の海の把握というのは、さすが海運の街「舞鶴」を想起させられます。近世以降、軍事的にも大変重要な位置を占めることになった舞鶴の軍港としての歴史がよく理解できました。
地籍図については舞鶴が明治前期に豊岡県から京都府へ編入された歴史的経緯と、そのことによる地籍・地籍図への影響、及び最終的に土地台帳(土地台帳附属地図)制度へと移行する土地公証制度について解説もあります。
全体的な感想として、本書は図録としては、いかんせん判型が小さく、掲載された絵地図や古地図も必然的に小さく見づらい点はあります。しかし舞鶴地域の成り立ち、特徴を「絵地図」という独特の視点から理解する、という意味では前述の地域特性にも配慮した編成のおかげで一般市民の方にとっての導入的な資料集としては十分評価できると感じた次第です。
また「舞鶴の絵地図」では、さらに一つ特徴的な点がありました。といいますのは「写真撮影・図版作成協力」ということで裏面に「京都土地家屋調査士会」のお名前が掲げられていた点です。
具体的にどのページの、どの資料についての協力なのかはわかりませんでしたが、こうしたパブリックな資料集への協力というのは、まずもって土地家屋調査士独自の知見・能力を活用した社会貢献として大変意義あることと思います。
また、巻末にこうして名称を挙げていただくことは土地家屋調査士制度のPRとしても大変効果的ではないでしょうか。新聞やテレビ等を活用したPRとは違って即効性はないと思いますが、ロングテールの、かつ自らの品位を着実に高めることに繋がる、素晴らしい広報になったのではないでしょうか。滋賀県土地家屋調査士会でも機会があれば是非こうした活動を見習っていこうと思いました。