毎日新聞2018年1月8日 東京朝刊 より転載
皆さんご存知の通り、森友学園への国有地売却を巡って、新たに払下げに際しての値引きの根拠や決裁文書の改竄などの問題が噴出し、国会が紛糾しています。
昨日は国会での予算委員会集中審議が行われていましたが、そこで自民党のW議員からの質問で、山梨県のとある学校法人への国有地払下げの問題が取り上げられていました。私はこの事案について全く知りうる立場にはないのですが、政治家の関与云々は抜きにして、仕事柄か興味が湧きましたので、この問題を報じた毎日新聞の記事がたまたまネットに公開されていたこともあり、読んでみました。
記事では見出しに「山梨の国有地を格安売却 評価額の8分の1・財務省」とあります。そこだけを抜き取りますと、「これは事件!」と思わないではないのですが、実情は記事によると、大よそ下記のようなところのようです。
‘国有地は旧建設省が管理して農道や用水路として利用されていたが、1960年代に学園が周辺の田畑を買収して滑走路などを整備した際、敷地内の農道なども無断でその一部にしていた。
理財局は「土地の管理が旧建設省から移管された67年に無断使用を把握した」としている。無断使用の経緯や当時の交渉に関する記録は残されていないとされ、学園によると、80年代に国と学園が協議をしたものの価格面で折り合わなかったという。
12年に会計検査院が国有地の処理促進を提言し、交渉が再開。財務局は土地の価格(相続税評価額)を約7180万円と算定したが、学園側は他人の土地を一定期間占有し続けた場合に所有権を取得できる民法の規定(時効取得)を根拠に「本来なら無償譲渡すべきだ」と主張した。協議の末、財務局は減免措置を適用し875万円で売却。使用料も減免措置を用いたうえ、民法上さかのぼることができる10年分の計約161万円を徴収した’
上の記事に「農道や用水路」とありますが、記載の説明図も併せみますと、たしかに、いわゆる「長狭物」と言われる、公共物の払下げに関する事案のようですね。
私の少ない経験でも、これまで工場敷地や学校敷地など高度経済成長期を中心に取得した際、隣り合う里道や水路を一体的に造成の上、利用し、払下げ手続きがなされず今日まで至っているケースを幾つかみてきました。おそらく全国的にそうした事例は少なくないものと考えますが、今回のケースも学校敷地、それも飛行場を併設する広大な敷地のようですね。しかも「信玄堤」で有名な釜無川沿いの土地ですから、霞堤なども一部取り込まれているのでしょうか。
とはいえ、元が道や水路ですから幅も狭く、言うまでもなく建物などを建築できる幅員は全くないわけです。森友学園が取得したような、校舎が建てられるような、それなりにまとまった土地であれば価格もつけようがあると思います。しかし、こうした里道水路に限っては、その土地単体では事実上取引はできないわけですから、実情に即した、適正な鑑定評価というのは現実的に難しい気がします。
もちろんこの山梨の案件、払下げ価格が適正であったかどうかは、私自身は判断できる材料を持ち合わせていませんし、いわんや政治家の関与があったかなかった等、知る由もありません。
ただ、私見ではありますが、実際に道や水路としての役割を喪失し、その復元も困難、もしくはその復元費用が見合わない、こうしたケースは、払下げ価格は二の次にしても、出来うる限り払下げを促進し、早期に実際の利用状況に沿ったものに変更していくことが大切であると考えます。実際に機能を喪失して久しい行政財産を帳簿上とはいえ、管理するだけ経費の無駄でしょうし、民間の所有地になれば逆にその後は固定資産税も徴税できるわけです。(ちなみに「行政財産」とは、公用又は公共用に供し、又は供することを決定した財産をいいます。例えば、公園、道路、海浜地などが挙げられます)
そもそも残念なことですが、里道水路が敷地内にあるにも関わらず払下げ手続きもせず、無断占有を継続しているケースもまだまだ多いのが実際です。これは本来脱法行為なわけで、逆に正式に手続きを行って払下げを受けた方が世間から指弾されるようでは、社会がおかしくなってしまいます。
ですから、今回国会で取り上げられたようなケースではあまり、表面的な払下げの価格にとらわれず、行政財産を無駄にしないためにも、今後一層、強力に行政側から民間側へアクションを起こしてほしいものです。
また、その際には、私も今回初めて知りましたが、この記事で取り上げてある払下げ価格の算定方法、「他に需要がない」で50%、「借地権の控除」で50%、「教育施設の減額」で50%ということもハッキリ明記しておくことも払下げの促進につながるような気もします。他に、時限立法的な手立ても有効なのかもしれません。
なお、国家資格者である、土地家屋調査士や行政書士側からもこうした行政財産(里道水路)の不法占有を許さない、そして実際に現に使用しているにもかかわらず、詳細を知らない方には払下げを啓発するといったアクションも必要かもしれません。国会の審議も国有地払下げで当面盛り上がりそうな今こそ、社会へアピールしていく絶好の機会なのかもしれませんね。