宅建業者からみた「境界が確定している状態」とは?

 先日、本ブログでもご紹介させていただきましたが宅地建物取引士の法定講習に参加してきました。

 講習では弁護士の先生から講習テキストを中心に説明があったのですが、その中に「物件調査」の項目があり、境界確定において隣地所有者への確認を怠った、という事例が紹介されていました。 詳細は省きますが、媒介業者が売主の説明のみで境界が確定しているものと勘違いし、それが不正確な境界であったため買主に損害を与えてしまった、という、ありがち?な事例です。

それはそれでいいのですが、その一連の事例紹介の下に【参考】という欄があり、このような説明が掲載されていました。

 

 私自身は最近、コテコテ?の宅建業者様とはあまりお付き合いがないのですが、これまでも境界明示を宅建業者様から求められたことはあります。

 

 境界「明示」と境界「確定」との違い、分りますか?

 

宅建業者から見た「境界が確定している状態」「境界明示」とは、こういうことを言うのですね

以下、宅地建物取引士法定講習テキストより抜粋します

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(1)「境界が確定している状態」とは、どのような状態のことを言うのか

 

 売買対象地と官有地を含む全ての隣接する土地の境界について、当該所有者の立会いの下に境界確認を行い、これに基づく測量図に署名・押印(実印)し、原則、印鑑証明書が添付された状態を、「境界が確定している状態」という。このようにして作成された測量図を「確定測量図」といい、原則として分筆、合筆、地積更正登記が可能である。

 しかしながら、作成に際し官民査定に数か月を要すること、あるいは、すべての隣接地所有者の実印による押捺や、印鑑証明書の添付等の要件が整わない場合もありうることなどの理由から、一般私人間の不動産取引の場合には敬遠されている。このため、実務上で多いのが「現況測量図」を作成する方法であり、法的には未だ境界が明確になっている訳ではない。

 

(2)「現況測量図」による境界の確定と明示の方法

 

 「現況測量図」による場合は、境界の確認・明示の方法に関し、次の(a)~ (c)のどの内容で行うのかについて、当事者の意向を十分確認しておく必要がある。

 

(a)全ての隣地所有者と立会い確認をして作成した「測量図」とは別に「境界確認書」を作成して署名・押印(認印又は実印)し、それらに基づいて境界を明示する方法

 

(b)全ての隣接地所有者と立会い確認をして作成した「測量図」に、互いに署名・押印(認印)のうえ交換し、それに基づいて境界を明示する方法

 

(c)全ての、又は一部の隣接地所有者の立会い確認をもなく、単に現況を測量した測量図に基づいて境界を明示する方法

 

(3)当事者への説明

 

 いずれにしても、新たに「確定測量図」を作る場合、あるいは上記(2)(a) (b)の方法による場合は、はたしてその実現が可能なのか、また、仮に可能な場合でも売主には多分の費用と時間を要することを十分説明する必要がある。

 そして、「現況測量図」に基づく境界の明示は手間がかからない反面、法的には境界が確定しているとは言えないので、将来紛争が起こる可能性があること、また、分筆、合筆、地積更正登記をなし得ない場合があることなどを、あらかじめ購入者には十分に説明をした上で契約に臨む必要がある。

 

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 ここまで読んでいただいてお分かりのように、これはまさに絵に描いたような矛盾、損害賠償請求を受けた事例と同じ程度の確認内容で境界「明示」と言ってしまっています。折角のテキストですが、実際におこなわれている実務上の取り扱いとはいえ、あまりにも「明示」の意味を便利に、拡大解釈しすぎていると思います。 

この点は講師の弁護士さんもあまり触れられなかったのですが、説明する方も苦しいですよね。 

 

 なお、(2)「現況測量図」による境界の確定と明示の方法のうち、(a) (b) (c)にそれぞれ点数をつけるなら私なら(a) (b) は100点、(c)は0点です。 あくまで境界確認の資料として、ということでの点数ですが、土地家屋調査士なら皆似たり寄ったりの点数をつけるでしょう。

 何と言いますか、極端なのですね。中間が全くないのが宅建業者の(テキストに掲載されている)境界明示な訳です。

 

 もちろん、土地の売買の際に必ず境界確定測量図を添付するとなると、土地の売買が確実に阻害され、不動産市場が停滞してしまいます。なら、どうすればいいのか。「ゼロサムゲーム」でいいのか、実務家である土地家屋調査士として知恵の見せ所かと思うのですがいかがでしょうか。

 

 個人的には売主買主双方に利害関係のある宅建業者の調査ではなく、隣接地所有者の印鑑は省いてもいいので、あくまで土地家屋調査士が中立的に調査をしたという、土地家屋調査士作成の境界に関する図面のみを「境界明示図」と実務上規定すべきだ、といいたいです。 

 これなら「境界明示図」もそのまま登記には利用できなくても境界について一定の正確性は確保できるはずですし、宅建士にとっても業務の信頼性の向上、業務の効率化がはかれ、いやらしい話ですが土地家屋調査士業界にとっても業務量の増大が望めるものと思います。

 

 また、話のついでですがいわゆる「境界紛争ゼロ宣言」、日本土地家屋調査士会連合会がこの間スローガンにして提唱されてきた運動です。個人的にはわかりやすくていいスローガンだと思っています。

 しかし、境界紛争をなくすには土地家屋調査士のみでは無理です。いうまでもなく、土地には売主、買主などの土地所有者だけでなく様々なステークホルダー(利害関係者)がいるわけです。そのステークホルダーに一つ一つ説明し、納得していただき、一緒に活動を進めなければ、境界紛争ゼロなど正に絵に描いた餅でしかないと思います。繰り返しますが土地家屋調査士「だけ」で「境界紛争ゼロ」と息巻いても何の進展もないわけで、他の業界・団体を巻き込み、社会運動として国民的に認知してもらうことがまずは肝心だと思いますがいかがでしょうか。

 

 そして、その最も重要なステークホルダーの一つである宅建業者に、境界紛争防止や境界明示方法について組織だって話をする場をこの間もたれてきたのでしょうか。私にはそうした努力が連合会にどのくらいあったのか、寡聞にして不明ですが、少なくとも「境界紛争ゼロ宣言」は私の周囲では不評な要因の一つは、こうした身近で目の前の課題から、コツコツと地道に活路を切り開く展望が見られなかったからだろうと推測します。

 いずれにせよ不動産にはステークホルダーがつきものですが、土地家屋調査士業界を見ていると、自らの業界・業務論理「のみ」を大切にして、ステークホルダーに寄り添う姿勢が普段から欠けているような気はしています。

 

 はからずも講習会では宅建士として他の専門家と共同も強調されていましたし、既存住宅・中古住宅の流通促進も今日の大きな社会的課題ですから、境界の専門家である土地家屋調査士にとっても本来チャンス到来のはずです。

 

 宅建士の法定講習は五年に一度の宅建業者目線で土地家屋調査士をみるという、貴重な場でした。こうした機会でもないと客観的に自らを省みることは難しいですね。

 たまにはこうして目線を変えてみるのもいいな、と感じた一日でした。

 

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