日本地理学会春季学術大会にて口頭発表させていただきます

  2017年日本地理学会春季学術大会が、平成29年3月28日から30日の日程で、筑波大学において開催されます。大変名誉なことに私も第9会場、3月28日の上記時間帯にて口頭発表をさせていただく機会をいただくことになりました。

 この間、学会報告の度に地元の土地家屋調査士さんがみえられ、お話をさせていただく機会がありましたが、今回も宜しければ是非足をお運び頂けますよう、告知がてらお願い申し上げます。

 また折角ですので下に日本地理学会に既に提出しております報告要旨を掲載させていただきます。

 

 

元禄八年作成の大津町絵図に関する一考察

 A Case Study of the Otsu Neighborhood Maps(大津町絵図) in the Edo era (1695)

 

西村 和洋(滋賀県土地家屋調査士会)

NISHIMURA Kazuhiro(Shiga Land and House Investigators’Associations)

キーワード:近世町絵図、地籍図、不動産登記、屋敷地割、土地家屋調査士

Keywords: Neighborhood map(町絵図) , Cadastral map , Real Property Registration ,

Residential division , Land and House Investigator

 

研究の背景

土地家屋調査士は、不動産取引の安全の確保、国民の財産を明確にする

ために不動産の調査及び測量を行う国家資格者である。業務においては土

地境界の調査や確認は不可欠な要素である。土地家屋調査士としては、そ

の業務の性質から、最も原始的な土地境界を示していると考えられる近世絵

図について、これまでも少なからず関心を持ってきた。しかし土地一筆毎に

書き分けられた大縮尺の近世町絵図に関する研究は、城下町絵図や国絵図

等に比べると数は少なく、明らかにすべき課題は多いように見受けられる。

実際、今日の土地境界は、実は近世初期の地割・屋敷地割をそのまま継承

したケースが多いことが各地の調査で判明してきている。

そこで今回は元禄八年(1695)に大津代官に提出された大津町絵図群に

着目し、特に図に描かれた地割についての特徴について明らかにしたい。

 

研究目的

大津市発行の「図説大津の歴史」において、元禄八年大津町絵図につい

て以下のような解説がある。

『この大津町で元禄八年十月、各町いっせいに絵図の提出が指示された。

絵図には、町内各戸の間口と奥行、所有者、町内の各施設などが丁寧に記

入されており、当時の町の景観や構造がよく分かる。(中略)

同絵図は、現在所在が確認されているだけでも、大津百町の内の約80%

にのぼっている。いわば300 年前の大津町の景観が詳細かつ正確に復元

可能で、全国的にも貴重な資料といえる』

現在は滋賀県指定文化財でもあるこの絵図群について、その特徴を整理

し、同時期に作成された他都市の絵図と比較した。併せて大津において明

治期以降に作成された地籍図についても比較検討の対象とした。空間的要

素に時間的変化を加え、絵図上に記載された地割について今日との共通性

を明らかにする。

他都市町絵図との比較

元禄八年大津町絵図については、まずその奥書に図の提出の宛先として

代官の氏名のみ記載されているが、元禄二年に町絵図が作成された堺では

堺代官に加えて与力、同心に至るまで署名が見られる。また、大津町絵図の

裏書には作成の際に「年寄」「屋敷主」が現地立合を行った旨、さらに一部の

図には作成者が「大工」であるとの記載まで見られた。また当時、坂本町内に

蔵屋敷を所有していた酒井河内守や分部隼人正等の大名家家臣が町人と

同じ家持人としての立場での署名が見られるが、他都市では類例がないと思

われる。

図中の記載情報については、大津町絵図は幅の最小単位が「分」である

が、堺町絵図であれば最小単位は「間」(半間)である。また大津町絵図では

各屋敷地割についても表口・奥行に加え裏口の幅の記載があった。さらに四

辺の幅の記載がある屋敷地割さえも複数見られた。これらの幅に関する詳細

な情報は、今回比較のために行った面積計算にとって非常に有用であった。

 

大津町絵図の地割の特徴

大津町絵図に描かれた地割について、元禄期の屋敷地割の情報を使用

して換算し、明治期作成の地籍図記載の数値との差を比較する。なお、地籍

図(地券取調総絵図)記載の数値をそのまま換算したものが現在、法務局に

て取得できる地積情報であることは他の大津の町も含め既に確認しているこ

とから、現在の登記情報と比較したともいえる。また、今回の計算に当たって

は「分」以下の単位は判読が困難であったため、あらかじめ切り捨てた。

例として丸屋町(現在は大津中央一丁目)について取り上げたい。同町内

の元禄期に既に区画された屋敷地割39 筆の内、幅情報が判読可能な33

筆について、地籍図(地券取調総絵図)に記載された地積との差を比較した。

計算の結果、元禄期の屋敷地を明治期(現在)屋敷地で除したところ、実

に8 割をこえる28 筆の地積が5%以内の誤差内に収まるという結果が確認

できた。なお、一筆毎の誤差を平均すると102%、総筆を合算した全体の誤

差率は101%でわずかに元禄期の地積が大きいという結果となった。

しかし、そもそも明治期の面積の最小単位が「歩」であり、歩以下の数値を

除外している点、また今回の結果は現在の国土調査における許容誤差の範

囲内の数値でもあり、総じて高い精度を持つといえる。なお、大津町絵図に

ついては一間を六尺三寸で測量したと記した資料もあるが、この数値結果か

ら一間は六尺五寸で測量したとみるのが正しいと考える。

 

まとめにかえて

今回、大津町絵図の内、丸屋町の事例を取り上げた。結論として、元禄八

年作成の大津町絵図に記された屋敷地割に関しての幅情報は非常に精度

の高いものであって、以降変更されることなく明治から現在へと情報が引き

継がれていることが確認できた。

なお、今後はさらに調査の範囲を拡大し全市的な絵図の精度の確認を行

うとともに、複数回の沽券改を経て地籍図・公図へと引き継がれていく過程で

の測量や製図の詳細について明らかにすることを今後の課題としたい。

 

参考文献

大津市歴史博物館市史編さん室(1999):『図説大津の歴史上巻』,大津市

 

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